- 後継者がいない会社は廃業するしかない?
- 後継者がいない会社の対策方法は?
- M&Aがオススメと聞いたことがあるけど、廃業とどう違うの?
少子高齢化の影響で、後継者がいないオーナー経営者が急速に増加しています。
中には事業自体は好調であるのに、事業の後継者がいないという理由で、事業を廃業せざるを得ない方もいらっしゃるほどです。

本当は廃業はしたくない…
でも、それを相談できる相手がいない…
事業承継支援を専門のお仕事としていると、このような悩みに耐えかねた結果、相談に来られる方は本当に多いです。
親族内にも社内にも後継者がいない場合、「M&A」と「清算・廃業」の2つの選択肢があることをお伝えした上で、私はM&Aをおすすめしております。



こんな小さな会社のM&Aなんてできるの?
買いたい人なんて見つからないんじゃないの?
どんなに小さい会社であってもM&Aの可能性は十分にあります。1社だけでなく、何社からもオファーが来る可能性だって十分にあります。
そこでこの記事では、なぜ廃業よりM&Aをオススメするのか、その理由についてご説明していきます。
その上で、ではどうやってM&Aをやれば良いの?という点に関しては別の記事でご案内しておりますので、ご興味があれば併せてご覧になってください。
この記事の結論
- 税金面・従業員雇用の維持・取引先への影響の理由から、廃業よりも先にM&Aを検討するべき
- 売上高3億円未満の企業はM&Aマッチングサイトを活用して、売り先を探すべし
- 売り先がどうしても見つからない場合に、清算・廃業を検討するべき
後継者がいない場合の事業承継の考え方


一般的に、親族内にも、社内にも事業の後継者がいない場合の事業対策としては、大きく分けて以下の4つがあります。
- 会社を第三者に売却する(いわゆるM&A)
- 外部から人材を呼ぶ(招聘する)
- 上場会社になる(IPO)
- 廃業する
このうち、「②外部から人材を呼ぶ」と「③株式公開(IPO)をする」の2つの方法は、中小企業あるいは個人事業主の事業承継では現実的な方法ではありません。
したがって、実質的な選択肢としては、以下の2択に絞られます。
- 会社を第三者に売却する(いわゆるM&A)
- 廃業する
そもそもM&Aや廃業が何か分かっていないよ!という方 以下をクリック!
M&Aとは?
廃業とは?
なぜ廃業よりM&Aがオススメなのか?6つの比較項目で理由を徹底検証!


廃業とM&Aの比較をする上でのポイントは6つあります。
各ポイント毎に廃業とM&Aの比較表を以下にて作成しました。
なお、中小企業のM&Aは株式譲渡で行われることがほとんどであるため、以降は株式譲渡を前提に解説しております。
比較項目 | M&A (株式譲渡) | 廃業 |
---|---|---|
手残り | 多い | 少ない |
従業員雇用 | 維持 | 全員解雇 |
取引先への影響 | 小さい | 大きい |
技術・ ノウハウ | 維持 | 失う |
期間 | 読めない 最短2ヶ月~ | 早い 通常1ヶ月程度 |
確実性 | 不確定 買い手探しが鬼門 | 確実 意思決定のみ |
【比較①】オーナー経営者に入ってくる手取り額はM&Aの方が大きい
1つ目は、手残り額の多さ、すなわち事業を引退してオーナー社長の懐に入る現金の多さに関する比較です。
手残り額の多さに関しては、実はM&Aの方が多いです。
ポイントになるのが、税金です。M&Aと清算・廃業とではオーナー社長に課される税金が全く違います。
M&Aでは、会社に対して出資した金額とM&Aで売却した金額との差額、つまり譲渡益に対して所得税・住民税が課税されます。
この時の税率は20.315%で固定です。
対して、清算・廃業した場合は、オーナー社長に対して支払われる清算配当の金額に対して、所得税・住民税が課税されます。
この時の税率は累進課税で最高55%と非常に高い税率です。
イメージ図は以下の通りで、M&Aの方が圧倒的に税金が安いことがお分かり頂けると思います。



収入金額はどちらも同じ100なのに、こんなにも手取り額が違うんですね…



お金が全てではありませんが、やはり税金の差は無視できません
【比較②】従業員の雇用:M&Aが有利【重要】
2つ目は、従業員の雇用に関する比較で、勿論M&Aの方が喜ばれます。
M&Aの場合、会社の株式が株主の手から離れるのみであり、事業自体は新しいオーナーの元で継続されるため、M&A実行後も従業員の雇用は維持されます。
対して、清算・廃業の場合、会社自体が消滅することになるため、従業員の雇用を維持することはできず、全員解雇する必要があります。昨今は転職がしやすい環境になりつつありますが、それは比較的若い世代だけの話であり、年配の従業員の転職はやはり難しいのが現状です。



M&Aで自分だけ引退することに引け目を感じる経営者もおられますが、
廃業で、従業員が失業してしまうことの方がよっぽど問題です
【比較③】取引先からの理解:M&Aが有利【重要】
3つ目は、取引先への影響に関する比較で、これも勿論M&Aの方が影響は少ないです。
M&Aの場合、事業自体が別の人に引き継がれることから、自社の仕入先や売上先は引続き取引を継続することができます。
対して、清算・廃業の場合、自社の事業が廃止されることになり、自社の仕入先の生産・販売計画や、自社の売上先の調達計画に大きな影響を及ぼします。仮に、自社とは別の会社に発注ができる環境であったとしても、引継ぎ等で一定の時間がかかることが想定されるでしょう。
【比較④】技術・ノウハウ:M&Aが有利
4つ目は、技術・ノウハウの継承の比較で、M&Aの方が有利です。
M&Aの場合、自社が長年築き上げた技術力やノウハウ・ブランド力をM&Aの買手が評価し、買手は大事に守っていくことになります。
対して、清算・廃業の場合、会社は廃業することから当然ながら独自の技術は失われる結果となります。仮に同じ技術やノウハウを再度構築しようとすると、時間やコストが膨大にかかることが予想されることから、日本経済に与える損失は大きいです。



当社の伝統と技術が受け継がれることは嬉しいことだね
【比較⑤】完了までのスピード:清算・廃業が有利
5つ目は、完了までの期間に関する比較で、こちらは廃業の方が早く完了できます。
M&Aの場合、買い手がすぐ見つかる場合もあれば、中々見つからない場合も想定されます。一般的には、2ヶ月程度かかるとも言われたりすることもありますが、こればかりは本当に読めません。
対して、清算・廃業の場合、換金する財産の種類・数にもよりますが、1~2ヶ月程度あれば完了することが一般的です。
例えば、ご体調が優れず、M&Aが完了するまで待っていられない等の場合は、M&Aよりも廃業を選択することもあり得ると考えます。
【比較⑥】確実性:清算・廃業が有利
6つ目は、確実性に関する比較で、こちらは廃業の方が確実です。廃業は意思さえあれば確実に実行できますが、M&Aは買手が見つかるかどうかは確実ではありません。
繰り返しになりますが、M&Aの場合は、買手が必ずしも見つかるとは限りませんし、買手が見つかったとしても必ず成立するとは限りません。
対して、清算・廃業の場合、オーナー社長の意思さえ固まれば確実に実行することができます。
廃業を行う場合の手続は別記事にて詳しく解説を行う予定です。



良いご縁が得られない場合には、廃業を選択せざるを得ない場合もあります
中小企業M&Aの買手の探し方は?
売上高3億円未満の企業はM&Aマッチングサイトの利用がオススメ


小規模企業が行うスモールM&Aの買手の探し方は、大きく分けて5つあります。
- 知人から紹介してもらう(親戚、友人・顧問税理士)
- 取引のある金融機関に紹介してもらう
- 事業引継ぎ支援センターに相談し、買い手を紹介してもらう
- M&A仲介会社に依頼する
- M&Aマッチングサイトに案件を登録して、買い手を募る
このうち、売上高3億円未満の小規模企業はM&Aマッチングサイトを活用することがおすすめです!
M&Aマッチングサイトとは、売り手・買い手がインターネット上のシステムに登録することで、M&Aの相手先探し等を低コストで行うことができる支援ツールです。








M&Aマッチングサイトに関しては詳しくは別の記事にて解説を行っておりますので、併せてご覧下さい!


そもそもM&Aとは


M&Aとは:一般的には株式譲渡のこと


M&A(エムアンドエー)とは「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の略です。
M&Aの意味は、「企業の合併・買収」のことで、2つ以上の会社がひとつになったり(合併)、ある会社が他の会社を買ったりすること(買収)です。
M&Aは、仕掛ける側(買い手)のイメージを持たれる方が多いですが、事業承継では仕掛けられる側(売り手)の立場です。
M&Aのメリット・デメリット
特に、後継者がいない会社でM&Aををした場合のメリット・デメリットは以下のとおりです。
そもそも廃業とは


廃業とは?倒産や休業とどう違うの?
廃業とは自主的廃業のことである


「廃業」は法律上定義されている言葉ではありませんが、一般的には「自主的に経営を辞め、会社をたたむこと」を指します。
廃業するためには、「法人を解散させ、財産と債務を全て清算(要は換金・返済)」する必要があります。具体的には、以下の手続きを行います。
- 株主総会の特別決議
- 会社の解散・清算の登記・届出
- 財産目録の作成・清算手続(財産の換金、債務の弁済)
- 残余財産の確定・株主への分配
- 清算完了の登記・届出(清算確定申告書の提出、清算結了登記)
廃業と「倒産」の違い|借金が返せるかどうか
廃業と似た言葉で「倒産」があります。倒産も法律上定義されている言葉ではありませんが、一般的には「会社の資金が枯渇し、取引先や金融機関への資金決済が困難になること」をいいます。
廃業と倒産の違いは、借金を返すことができるかどうかにあります。
- 廃業:資金はあり、借金を返せるが、自主的に廃業
- 倒産:資金が足りず、借金を返せないため、やむを得ず事業をたたむこと
廃業と「休業(休眠)」の違い|会社自体が消えるかどうか
廃業と似た言葉で「休業」があります。休業は、法律的には「休眠会社」と呼び、「会社の事業活動を一時的に停止させ、会社自体の活動を停止させること」をいいます。
廃業と休眠の違いは、会社自体が消滅するか、残り続けるかにあります。
- 廃業:会社は消滅する(解散して清算する)
- 休眠:会社自体は残る
休業は、将来的に事業を再開する可能性がある場合の選択肢とされます。しかし、後継者不在の事業承継において、会社自体を残す必要性は少ないため、休業より廃業を選択することが一般的です。
廃業のメリット・デメリット
廃業のメリット・デメリットは以下のとおりです。
短期間で確実に実行できるため、緊急性が高い場合に事業を閉じる方法としては有効である一方で、税金面で不利であったり従業員の雇用が失われる等のデメリットが存在するため、十分に検討した上で実行することが重要です。
まとめ


後継者のいない会社の事業承継対策方法はM&Aと廃業の2つがあることをご紹介しました。
そして、M&Aと廃業を比較した場合、廃業は短期間で確実に実行できるメリットもある一方で、M&Aは、税金面で有利であるだけでなく、従業員の雇用を守れたり、取引先に迷惑を掛けずに済む等の大きなメリットがあることが分かりました。
オーナー経営者と会社の置かれた状況にもよりますが、まずはM&Aの可能性をご検討されては如何でしょうか。
M&Aはこの令和の時代にあっては、もはや他人事ではなく自分事になっていますので、今回の記事がご参考になれば幸いです。